オメラス
冬を越えてしまった昆虫が静かに息を引き取った夏
世界で一人だけ、夢から醒める方法を知ってしまったみたいに
私を他人事にしたのはきっと私だった
ひしゃげた空き缶の中身
不眠症の小鳥の舌
それから
あなたの裸足に、いまでも貼り付いて一緒に歩いている
炭酸飲料と雑草の匂いが夕暮れを遅くする
「うつくしい」を知ったのは確かこのくらいの時期だった
死体の隣に花を飾り続ける私に
雨がいつ上がるのかを尋ねてきたあなたは、きっと勇気のある人だった
吸い込んだ酸素は誰の祈りだったか
ここには名前のついた色しかない
もらえなかった者たちは
他人の思い出にも、なれない
生きることは最も尊いことではない
生きることは最も尊いことではない
私は
こどもの呻き声が聞こえる
0コメント