九月の蝉
九月の蝉が鳴いている間は
うつつの欠伸
かくり世の午
透かし彫りの太陽が照らす白い庭に
今日も星だけが茫然と満ちる
夜はだいぶ前にこちらに背を向けて、
まだ帰ってはこない
とつ、とつ
甘く焦げた匂いのするアスファルトを踵で刻むと
靴の先にへばりついた影が手を振って、わらう
「やあ相棒、またなのかい?」
病を孕んだ黄色い身が弾けて宙を舞うのはうつくしかった
「娘よ
どうかその手のなかに
あの音を迎え入れてはくれないだろうか
あのような声で泣くものだから
そろそろ
明日が彼らに気づいてしまいそうなのだ」
願ったつもりが空気を滑って
流行りの歌になって
老人を追い越すクラクションに紛れて、消えた
だから、いまや九月の蝉は
私の中にあるだけだ
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