孵化
肋骨に紅い条が爪を立て
乳房は腐って道に転がった
散乱した母が湖面を白く汚し
乙女は星だけを凝視している
「背中の傷が疼くのを冷たいと思いました
熱いものを知らなかったので」
ベッドのシーツが未だにくるぶしを支配するのに
帰りを待つ海が耳元で轟音を立てる
次第に
次第に
騒音はいつしか痛痒くなって
目蓋にピンで留められた蛾の羽を血の溜まった爪で引っ掻くと
鼻梁をなぞって首すじへ落ちた
それから朝が
赤錆びた鎧が音を立てて砕ける
多すぎて絡んでいた手足が千切られていく
残されたたった四つは
大脳に刻んだ怨嗟の読み方を忘れ
脊椎を走る怒号じみた歓声に突かれて
腕の中で死んでいた少女を捨て
人になりきれぬ私を引きずり
溶解する五指でドアノブを
掴み、
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