花と幽霊
むしあつい昼下がりのことだった
ぬるい雨に頭を押さえつけられ
下がった視界の
スニーカーの先
泥まみれの半透明に手を引かれ
波打つ水溜まり、踏んだ
補助輪付きのロシナンテ
藤の木の下で拾った伝説の剣
昔、魔法の薬に使った実のなる草は
…なんていう名前だったかなあ
秘密基地は作らなかった
二度と帰れなくなる気がしたから
線路の向こうは別のくに
まだ見ぬ冒険の地は
冒険の地のまま、見えなくなって
「もういいよ」
銀紙のバッジを失くしても
太陽の絵が描けなくなっても
木登りが下手になっても
路地裏の猫に逃げられても
もう、この手を引かなくても
見えなくなったものがあるけど
見えなくなっているだけだ
やけに肩が凝るのだって
きっとそういうことだろう
凪いだ水溜まり、踏んだ
広くなった視界の先
線路の向こうには、花が咲いていた
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